おはようございます。
練馬区議会議員の佐藤力です。
今回は、いま大きく動いている「高校授業料無償化」について、制度の基本から、これまでの経緯、メリット・デメリット、東京・大阪の現状、そして私自身の考えまで、まとめて整理してみたいと思います。
高校進学が「当たり前」になっている時代だからこそ、入口の授業料をどうするのかは、日本社会全体の大きなテーマです。
目次
1.高校無償化制度の今と、これからどう変わるのか
まずは、「高校無償化ってそもそも何?」というところから、できるだけシンプルに整理します。
1-1 現在の基本制度:高等学校等就学支援金
いわゆる高校無償化の正式名称は「高等学校等就学支援金制度」といいます。国が高校の授業料に充てるお金を、保護者ではなく学校側に直接支給する仕組みです。
対象は、公立・私立の高校だけでなく、高等専門学校(高専)や専修学校の高等課程など、いわゆる“高校相当”の学校も含まれます。
もともとの大きな目的は、
- 「授業料の負担が重くて、高校進学や継続を諦めてしまう子供を出さない」こと
です。
従来は「年収約910万円未満」といった所得制限があり、支給額もおおよそ次のようなイメージでした。
- 公立:年間11万8,800円
- 私立:上記を基準に、所得が低いほど上乗せ
しかし、この仕組みはここ数年で大きく変わりつつあります。
1-2 2025〜2026年度にかけての“大転換”
2025年には、自民党・公明党・日本維新の会の3党が、高校授業料無償化の新しい制度設計で合意しました。
ポイントをざっくりまとめると、次のとおりです。

◆ 2025年度(令和7年度):高校生等臨時支援金
- 「高校生等臨時支援金」という臨時の仕組みを創設。
- 実質的に、所得制限をほぼ撤廃して支援を広げる位置づけ。
◆ 2026年度(令和8年度)以降:本格的な全国無償化へ
- 所得制限を正式に撤廃。
- 公立・私立とも、すべての家庭を対象に授業料支援を行う方向。
- 私立全日制高校では、支援の上限額を年間45万7,000円まで引き上げ。
さらに、教材費や修学旅行などを支える「高校生等奨学給付金」も、中所得層まで対象を広げていく方向で整理されています。
つまり、「高校授業料の無償化」は、いよいよ本当に“全国一律で”“所得制限なしで”という方向に、大きく舵が切られたということです。
2.これまでの議論の流れ
次に、「ここまでどういう経緯で来たのか?」を、ざっくり年表で振り返ってみます。

- 2010年度:民主党政権
公立高校授業料の無償化がスタート。この時点では所得制限はありませんでした。 - 2014年度:自公政権で見直し
所得制限(年収約910万円未満)が導入され、制度の名前も「高等学校等就学支援金制度」に整理されます。 - 2020年前後:私立実質無償化の拡大
低所得世帯を中心に、私立高校授業料の「実質無償化」を進める自治体が増加。大阪府や東京都などが先行して、独自に上乗せ支援を実施してきました。 - 2023〜2025年度:少子化対策との一体議論へ
「異次元の少子化対策」の流れの中で、
・「子供の教育費負担を軽くしよう」
・「高校は基本的に誰でも行く時代なのだから、入口の授業料は思い切って無償にしよう」
という議論が一気に加速。
その結果、先ほどの三党合意につながり、2026年度からの本格的な無償化へと進んでいる、という流れです。
3.制度のメリットとデメリット
ここからは、「いい点」と「課題になりそうな点」を、バランスよく整理してみます。
3-1 メリット(プラス面)

(1)家計の教育費負担が大きく軽くなる
高校の授業料だけでも、年間で10万〜40万円台くらいかかるケースが多く、それがゼロ、もしくは大きく軽減されるインパクトは非常に大きいです。
特に子供が2人・3人いる世帯にとっては、「高校の授業料がほぼ心配いらない」というのは、家計にとって大きな安心材料になります。
(2)高校進学・中退防止につながる
経済的な理由で「全日制を諦めて定時制に」「中退せざるを得ない」といったケースを減らす効果が期待されています。
“高校進学率ほぼ100%”の社会を、実質的に支える役割を果たします。
(3)公立・私立間の選択肢が広がる
「学費が高いから公立しか選べない」のではなく、「子供に合った学校かどうか」「教育内容・校風」で選びやすくなります。
これまで東京や大阪のように独自施策が進んでいた地域と、その他の地域との格差を縮める狙いもあります。
(4)少子化対策・人への投資としての意味
日本は他の先進国と比べて「教育への公的支出」がまだ少ないと言われています。
高校無償化を進めることは、
- 「子供を産み育てることへの不安を少しでも減らす」
- 「教育への公的投資を増やしていく」
というメッセージにもなり、少子化対策・人への投資という観点からも重要だと考えられます。
3-2 デメリット・課題(懸念されている点)

(1)所得制限撤廃は本当に妥当か
年収1,500万〜2,000万円クラスの世帯も、同じように授業料無償の恩恵を受ける設計になります。
そのため、
- 「本当に困っている家庭に、もっと手厚くお金を回すべきでは?」
- 「一律無償は、ある意味“バラマキ”ではないか」
といった批判もあります。
一方で、
- 「誰でも使える普遍的な制度の方が、遠慮せず利用しやすい」
という意見もあり、いわゆる「普遍主義」か「選別主義」かという古典的な論点になっているところです。
(2)授業料以外の負担は残る
高校生活には、授業料以外にも、
- 入学金
- 施設整備費
- 教材費・制服代
- 修学旅行・部活動費
- 塾・予備校など
さまざまな費用がかかります。
授業料を無償化しても、学校側が他の費用を上げてしまえば、家計全体の負担はあまり変わらない可能性もあります。
そのため、三党合意では「便乗値上げを防ぐため、授業料などを一元的に公開・検証する仕組み」を作ることも確認されています。
(3)教育格差は本当に縮まるのか
高校は行きやすくなっても、
- 小中学校の段階での学力差
- 塾代や受験への対応
- 大学・専門学校への進学費用
など、授業料以外のところで格差が残るのではないか、という指摘も多くあります。
「無償化だけでは構造的な教育格差は解決しない」――この視点は、私も非常に重要だと考えています。
(4)公立・私立・地域間のバランス
無償化が進むと、
- 人気の私立に志願が集中
- 一部の公立が定員割れ
といった現象が起きやすくなります。
大阪府では、2024年度の府立高校入試で、全日制145校のうち約半数の70校が定員割れとなりました。東京でも、都立高校の一部で定員割れが目立つようになったという報道があります。
「公立と私立の役割分担をどうするのか」「地域の学校配置をどう見直すのか」という、教育政策全体の議論が避けて通れなくなっています。
(5)外国籍の子供・通信制・インターナショナル校などの扱い
今回の三党合意では、外国籍の生徒や外国人学校について、在留資格などを条件とした別枠の支援制度にするとされています。
「同じ日本で暮らし、学んでいる子供は、国籍に関係なく支援すべきではないか」といった批判や、制度が複雑になることで支援から漏れる子供が出ないかという懸念もあります。
また、通信制高校やインターナショナルスクールなど、多様な学びの場をどこまで同じように支援するのかも大きな論点です。
(6)財源と、他の教育施策とのバランス
新しい無償化パッケージには、約6,000億円規模の恒久財源が必要だとされています。
限られた財源の中で、
- 高校無償化
- 保育・幼児教育
- 大学授業料・奨学金
- 教員の処遇改善や少人数学級
など、どこにどれだけ配分するのか。
「高校だけ切り取って良し悪しを語る」のではなく、教育全体の中でどうバランスを取るかが、とても重要になってきます。
4.東京都と大阪府の現状と課題
次に、高校無償化の“先行地域”である東京都と大阪府について、ポイントを整理しておきます。
4-1 東京都の高校授業料無償化
東京都では、国の就学支援金に上乗せする形で、独自に「私立高等学校等授業料軽減助成金」という制度を設けています。
2024年度からは、この都独自の制度で所得制限を撤廃し、
- 国の就学支援金+都の助成
- 都内私立高校の平均授業料(年間約49万円)までは実質無償
という設計になっています。
都立高校についても、国の制度の対象外となる高所得世帯に対して、東京都が同額を負担することで、世帯年収に関係なく授業料を実質無償にしています。
その結果として、
- 私立高校を第一志望にする受験生が増えた
- 一部の都立高校で定員割れが目立つようになった
といった影響が指摘されています。
4-2 大阪府の“完全無償化”と定員割れ
大阪府では、2024年度から高校授業料の“完全無償化”を段階的に導入しました。
その影響もあり、2024年度の府立高校入試では、
- 全日制145校のうち約半数、70校が定員割れ
という、かなり衝撃的な数字が出ています。
特に、いわゆる“ナンバースクール”と呼ばれる、伝統ある人気校まで定員割れしたことで、
- 「公立高校の存在意義とは何か」
- 「学校の数や配置はこのままでよいのか」
といった、より根本的な問いが投げかけられている状況です。
東京都も大阪府も、高校無償化の先行地域として、今回の全国制度づくりの重要な参考例になっていますが、
- 「単に授業料を無償化すれば良い」という話ではない
- 「公立と私立の役割分担」「学校の数や質」「地域バランス」
こうした問題が一気に表面化しているのだと感じています。
5.佐藤力の考え
まず大前提として、私は「教育は日本の未来の“ど真ん中”、一丁目一番地の政策」だと考えています。子供への投資は、将来の日本への投資そのものです。
その意味で、高校授業料の無償化そのものについては、基本的に賛成の立場です。
一方で、それと同じくらい、あるいはそれ以上に大事なのは、教育の「質」をどう高めていくかという視点です。
大学が“ほぼ全入時代”と言われる中で、
- 内容が十分でない大学や学校でも、なんとなく進学してしまう
そんな状況は、決して望ましいとは言えません。
私が考える本来あるべき姿は、次の2点を両立させることです。
- 経済的な理由でスタートラインが不利になることを、できる限り無くす
→ そのために、授業料の無償化や奨学金などで「入口の平等」を整える。 - その上で、「ここで学びたい」「こういうことを学びたい」という意思を持った子供が、自分に合った学校を選び、しっかり学べる環境をつくる
つまり、「チャンスの平等」と「学びの多様性」をどう両立させるかが鍵だと考えています。
同時に、学校側にも「選ばれる学校になるための努力」が求められます。
今回ご紹介した大阪や東京のように、
- 定員割れが続いて廃校になってしまう学校
- 一方で志願者が集中する学校
――この差は、今後ますます大きくなりかねません。
今回は高校の話が中心でしたが、今後は区立中学校など義務教育の段階でも、同じような議論が必ず出てきます。
「黙っていても子供が集まる」時代から、「選ばれる公教育」になっていく覚悟が、私たち地方自治体にも問われている――私はそう感じています。
その中で、区として、公教育として、
- どんな教育内容を提供していくのか
- ICTや少人数学級、特別支援教育をどう充実させるのか
- 地域と一体になって、子供たちの学びと成長をどう支えていくのか
こうした点を、これからも真剣に考え、練馬区から具体的な提案を続けていきたいと思います。

