おはようございます。
練馬区議会議員の佐藤力です。
今回は、区が取りまとめた「練馬区空き家等対策計画(素案)」について、できるだけわかりやすく解説します。
「近所に空き家が増えてきた気がする…」
「あの家、庭の草木がボーボーでちょっと心配…」
そんなふうに感じている方も多いのではないでしょうか。
空き家は、防災・防犯・景観に加えて、地価や地域のイメージにも関わる大きな課題です。
この記事では、次の5つのパートに分けて整理していきます。
空き家をお持ちの方はもちろん、近所の空き家が心配な方、将来の実家の相続が気になっている方にも関わる内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
1.練馬区の空き家の現状
まずは、練馬区の空き家の「今」を整理します。

令和5年の住宅・土地統計調査によると、練馬区の住宅はおよそ42万戸、世帯数は約38万2千世帯。
住宅数が世帯数を上回っているため、住む人がいない家=空き家が一定数存在します。

区内の空き家は、賃貸用・売却用なども含めて約4万戸。
そのうち「賃貸・売却用」「別荘・二次的住宅」を除いた、誰も住んでおらず用途もない空き家が約8,000戸で、空き家全体の約2割を占めています。
| 区内住宅数 | 約42万戸 |
|---|---|
| 世帯数 | 約38万2千世帯 |
| 空き家(総数) | 約4万戸(賃貸・売却用等を含む) |
| 用途のない空き家 | 約8,000戸(空き家の約2割) |
「不接道(ふせつどう)」が大きな壁になる

今回の分析で、特に大きな課題として浮かび上がったのが「不接道」です。
建築基準法上の道路に2メートル以上接していない、いわゆる「再建築ができない土地」に建っている空き家が、空き家全体の約2割を占めることが分かりました。
不接道は、
- 建て替えができない(=活用や更新が難しい)
- 売却しにくい
- 老朽化しても打ち手が限られる
という構造的な問題につながります。
空き家の多い地域(上位)
地域別の空き家戸数では、空き家が多い地域は次の順となっています。

- 南大泉
- 大泉学園町
- 西大泉
- 大泉町
- 桜台
- 練馬
- 田柄
- 東大泉
- 春日町
- 高野台
この中でも田柄地区は特徴的です。建築基準法上の道路ではない「法外通路」に面する宅地が著しく多く、その多くが防災まちづくり推進地区に指定されている田柄地区に集中していることが、今回の分析ではっきりしました。
こうしたエリアは、将来にわたって大きな課題になる可能性が高い、というのが現状です。
2.区民アンケートから見えた不安とニーズ
次に、区民意識調査から「皆さんが何を不安に思い、何を求めているのか」を見ていきます。
空き家増加の“体感”は割れる

「区内に空き家が増えていると感じますか?」という質問では、
- 「増えていると感じる」:4割半ば
- 「増えているとは感じない」:5割超
という結果です。
つまり、明確に増加を実感している方は4割台。一方で半数以上は強く実感しているわけではなく、体感としては“意識が分かれている”状況です。
一方で「制度の認知」が圧倒的に低い
「区の空き家対策の制度を知っていますか?」という問いには、8割超が「知らない」と回答しています。
ここは重要で、
- 空き家の増加実感は人によって違う
- しかし、区が何をやっているかはほとんど知られていない
というのが現状だと言えます。
求められているのは「相談」「費用」「マッチング」

「区に取り組んでほしい空き家対策は何か?」では、
- 気軽に相談できる窓口の周知
- 解体・除却費用の支援
- 所有者と、活用希望団体等のマッチング
が上位に来ています。
空き家所有者アンケートでは、
- 解体費用の負担が重い
- 不接道で建て替え・売却が難しい
- 相続・解体・売却の手続きが分からない
- どこに相談すればよいか分からない
こうした声が多く、空き家問題を難しくしている要因は、まとめると「お金」「法律・手続き」「情報不足」の3つです。
3.これまでの対策と成果
「では練馬区はこれまで何もやってこなかったのか?」というと、そうではありません。
区では平成29年に、「練馬区空家等及び不良居住建築物等の適正管理に関する条例」を制定し、法律に基づいて空き家対策を進めてきました。


これまでの主な取り組み
- 司法書士会・行政書士会・不動産業界団体・建築士会・金融機関等と協定を結び、相続・売却・管理・活用の相談にワンチームで対応
- 区主催の空き家セミナー・個別相談会を年間10回以上開催
- 空き家の実態調査を実施し、老朽度・危険度をランク分けして把握
- 「特定空家」への助言・指導・勧告・命令、最終的には代執行も視野に入れた対応
- ゴミ屋敷等について、福祉部門と連携し、生活支援+片付け支援をセットで実施

その結果、危険な状態だった空き家が解消されたり、地域の公益活動の拠点として活用されたりと、一定の成果も出ています。
ただ一方で、
- 老朽化した空き家が増えている
- 管理が行き届かない空き家が増えている
- 不接道の空き家が多く、手の打ちづらい地区がある
など、新たに見えてきた課題もあります。そこで今回、「空き家等対策計画(素案)」の見直しへ、という流れになっています。
4.新しい空き家等対策計画(素案)のポイント
ここからは、新しい計画(素案)の中身を、かみ砕いてご紹介します。計画の柱は大きく3つです。
柱①:空き家の発生予防(そもそも空き家にしない)

空き家になってから困るのではなく、空き家にならないようにするという考え方です。
- 高齢の方やご家族に向けた「住まいのこれから」の啓発
- 相続・売却・活用の選択肢の情報提供
- 専門家・金融機関と連携した相談体制の強化
「親が元気なうちに一緒に考える」「早めに相談する」——これだけでも、将来“困った空き家”になるリスクを大きく減らせます。
柱②:適正管理と利活用の促進(地域の資源として活かす)

すでに空き家になっているものは、危険化を防ぐ管理と地域のための活用を進めます。
- 空き家情報データベースを更新し、状態を継続的に把握
- 助言・指導→相談会・セミナーへつなげる導線づくり
- 「空き家地域貢献事業」による、公益的活用(子育て支援、高齢者サロン、地域の集いの場等)への改修費・設備費補助
- 市場での売却・賃貸を進めるため、専門家と連携
使える空き家は地域の資源として活かし、危険な空き家は適切な管理や解体へ。メリハリをつけた内容です。
柱③:管理不全空家・ゴミ屋敷等への対応強化(必要なところでは厳しく)

屋根や外壁の崩落リスク、庭木の越境など、いわゆる管理不全空家や特定空家、そしてゴミ屋敷等への対応を強化します。
- 助言→指導→勧告→命令→代執行、というステップを明確化し、危険を放置しない
- 固定資産税の「住宅用地特例」が外れる仕組みも活用し、適正管理を促す
- 「管理不全土地・建物」など国の新制度も活用し、裁判所を通じた管理命令も検討
- ゴミ屋敷は福祉部門と連携し、生活支援+片付け支援をセットで行う
困っている人には寄り添いつつ、周りの生活環境を守るために必要なところでは厳しい対応もする——そのバランスを取っていく考え方です。
5.田柄地区の「空家等活用促進区域」と今後の展望
最後に、今回の計画(素案)の中でも特に大きなポイントになっている、田柄地区の「空家等活用促進区域」についてです。
田柄地区は、
- 空き家戸数が区内でも上位
- 法外通路に面する宅地が著しく多い
- その多くが防災まちづくり推進地区に集中
という特徴があり、課題が大きい地域です。
「敷地特例」で“建て替え可能”に道を開く

そこで区は、このエリアを「空家等活用促進区域」に指定し、不接道の空き家や土地について、一定条件を満たせば建て替えを可能にする「敷地特例」を設ける方針です。
例としては、
- 将来4m以上の幅員確保を見据えた敷地後退
- 避難のための50cmの通路空間の確保
- 2階建て・延べ200㎡以下の耐火建築物などの条件
などを満たすことで、これまで再建築が難しかった土地でも建て替えができるようにしていきます。
補助・戸別訪問・専門家支援をセットで
さらに、
- 旧耐震の木造住宅を除却して建て替える際の費用補助
- 空き家所有者への戸別訪問や相談会の開催
- 専門家チームによる個別相談・支援
をセットで行い、時間をかけて少しずつ、安全で暮らしやすい街並みに更新していく狙いです。
田柄地区での取り組みは、今後、他の地域にも応用できるモデルケースになる可能性があります。私も、しっかりチェックしながら、必要な改善提案を行っていきたいと思います。
まとめ:空き家は「放置するとリスク」「動けば解決に近づく」
空き家問題は、放置されるほど、
- 倒壊・火災・防犯のリスク
- 近隣トラブル
- 売却や活用の選択肢の縮小
につながります。
一方で、今回の計画(素案)では、予防・活用・管理不全への対応を整理し、さらに田柄地区では再建築が難しい土地への突破口も示されています。
空き家をお持ちの方も、将来相続が気になっている方も、まずは「早めに相談」「早めに方針決定」が重要です。
今後も、練馬区の空き家対策の動きは、分かりやすく追いかけてお伝えしていきます。




